活動ブログ

平成28年度 ミュージアム・トリップ

ミュージアム・トリップ:NPO法人キッズドア[中高生コース](2016.8.9)

8月9日火曜日、灼熱の上野公園で行われたのは、Museum Start あいうえのの今年度から始まった「ミュージアム・トリップ」というプログラム。

このプログラムは、さまざまな環境にあるこどもたちにミュージアム・デビューの機会を!という想いで今年度からスタートさせたインクルーシブ・プログラムです。児童養護施設や、経済的に困難な家庭のこどもを支援している団体、海外にルーツを持ちカルチャー・ギャップなどの困難を抱えるこどもを支援している団体など、各分野の機関と連携して実施するプログラムで、今回は、「NPO法人キッズドア」という、家庭の経済状況などの理由から塾に通えないこどもたちに無料で学習支援を行なう団体と連携して実施しました。

今回参加したのは、キッズドア主催の学習支援塾に通う、中高校13名と、キッズドア職員や学習支援の講師など引率者5名、保護者1名の計19名と、こどもたちの伴走役を担う「とびらプロジェクト」のアート・コミュニケータ(以下とびラー)13名。

上野駅の改札で集合するこどもたちをとびラーが出迎え、一緒に東京都美術館のアートスタディルームに移動するところからプログラムは始まりました。

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アートスタディルームに到着した参加者は、活動する2〜4名ずつの小グループに分かれて座り、まず、全体での挨拶や1日の活動の流れの説明を聞きました。その後、各グループでとびラーと自己紹介。自己紹介では、これから鑑賞する東京都美術館の企画展「木々との対話」展の図録から作成したアートカードを使って「自分が気になる作品」を1作品選択。名前の自己紹介に加え、その作品を選んだ理由もひとこと添えました。

この日のプログラムは午前中に東京都美術館で展覧会の鑑賞と、バックヤードの見学を行い、お昼ごはんを東京藝術大学の学食で食べ、そして午後には藝大内の工房見学をする、という盛りだくさんな内容です。
美術館の表舞台である展覧会を体験した後に、展覧会場に作品が並ぶ前に作品が通る搬入から展示までのプロセスをバックヤードツアーで見学し、更に午後には、作品が完成する前に制作される現場である工房を大学で見学するという、表舞台から美術館の舞台裏、作品の制作時まで、時間をぐぐぐっと遡るストーリーです。

 

《展覧会の鑑賞:「木々との対話」展へ》

「木々との対話」展は、5名の現代美術作家の木を素材に作られた作品が、繊細なものからダイナミックなものまで並ぶ、とても見応えのある展覧会です。まずはグループごとに会場をぐるっとめぐり、グループ鑑賞の時間を持ちました。

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このグループ鑑賞の時間は、とびラーが声掛けをしながら鑑賞を進行し、参加者が、作品を誰かと一緒に見る経験や、見て感じた印象を自由に交わしながら鑑賞する対話型鑑賞の経験、そして、何より、作品を自分なりに見つめ、自分なりに感じてよい、ということを経験するための時間です。

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つづいて、個別鑑賞の時間を30分ほど。
とびラーとこどもがマンツーマンになり、自由に会場を行き交いつつ、気になった作品の前で立ち止まっては、思いのままにゆったりと鑑賞します。グループ鑑賞の直後ということもあり、気がついたことをこどもの方から話し始める姿も見られました。大切なのは、そこに“聞き手”であるとびラーがいること。とびラーは作品を介したコミュニケーションに寄り添う“アート・コミュニケータ”であり、作品だけでなくとびラーという“聞き手”がいるからこそ、そこにコミュニケーションが生まれる、そういう場づくりを目指しています。

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人と作品が出会う姿や、作品を介して人と人が出会い、互いに「まなざしを共有している」姿は、プログラム中よく目にする光景ですが、何度目にしても都度、よい光景だなぁと感じます。そこには日常の社会的な「こども」「大人」などの区分なく、対等な1人の人としてそれぞれが存在し、作品や相手に向き合う姿勢が見られ、澄んだコミュニケーションが感じられるからでしょうか。充実した時間が流れているように思われます。今回のミュージアム・トリップでは、参加するこども数と同数のとびラーが参加することで、このように密な、そして充実したコミュニケーションが実現しました。

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また、この日は「木々との対話」展の番外編の特別展示で、作家の制作プロセスを紹介する「木々のアトリエ」が別会場で開かれていました。作品に使われている木の材質を実際に触ってみられるハンズオン展示などがされていて、展覧会と、この「木々のアトリエ」を行き来して楽しむ姿も見られました。

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《バックヤードツアー:作品運搬のエレベーターに!》

展覧会を鑑賞した後、展覧会場に作品が並ぶ前に作品が通るプロセスや、美術館の舞台裏を見学するバックヤードツアーへ。キッズドアの方の強い希望で、東京都美術館のアートコミュニケーション担当の熊谷学芸員の案内で、普段は入ることのできないエリアを見学しました。

作品がトラックで搬入される駐車スペースや荷解きスペースを見学し、その後、作品を載せるための大型エレベーターにみんなで乗せてもらいました。「うわー」という驚きの声。また、作品が通る道を実際に歩いたり、作品保護のために24時間の徹底した展示室の温湿度管理を司る中央監視室を見学したり。中央監視の職員の方からお話も聞きました。

展覧会だけではなく、美術館での展覧会が実現するためには、様々な設備があり、たくさんの人が働いているということを少し実感できたのではないかと思います。

 

《ランチは東京藝術大学の学食で》

午前中の活動を終え、荷物を持って隣の東京藝術大学へ。食券を出してオーダーする学食スタイルを体験しました。ポークカツや、生姜焼き、スペシャルランチ。学食らしいメニューを味わいました。

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《昼食後、藝大の工房見学へ》

午前中に鑑賞した「木々との対話」展との繋がりを意識し、まずは木彫のアトリエへ。木の香りのする工房にて、木彫の専門家、深井隆教授に木彫の特徴などを紹介をしていただきました。偶然にも、「木々との対話」展の5名の出品作家のうち、2名は藝大出身であり、特に愛らしい動物の作品の作者である土屋仁応さんは、深井教授の教え子とのこと!この場・この工房で専門的に学んだ学生が、作家となり、展覧会に出品して社会で活動しているという、大学という専門機関と職業というキャリアとの繋がりが感じられた瞬間だったように思います。

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つづいて絵画科の油画技法材料研究室へ。この研究室は、絵の具の研究をしたり、実際に作ったりしている場所です。見慣れない工具や、たくさんの種類のハケなどが並んでいました。普段使っている水彩絵の具やアクリル絵の具がどのように作られるか、実際に研究室助手の千村曜子さんが実演してくださいました。石などの鉱物を細かく砕いたものに、つなぎとなる液を加えて混ぜ合わせる。単純そうで奥深いその手順に、大人もこどもも参加者一同「へぇ!」という感じでした。

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プログラム内容の打合せの中でキッズドアの方が強く希望されたのが、参加する中高生が「大学」というものを少しでも身近に感じられる機会を設けること。学食でのランチや、大学構内のツアーなどの午後の活動は、その想いを受けてプランニングされました。キッズドアの方によると、大学への入学を目指した学習支援をするにあたり、こどもたちが大学という場所の具体的なイメージを持てるかどうかは、非常に大切だということです。

今回の大学体験を通して、大学が専門機関であり、研究するための専門の設備があり、専門の人がいて、そして、そこで学んだことが職業へと繋がることなどが少しでも具体的なイメージとして伝わればよいなと願っています。

 

《講義室でふりかえり》

最後に、参加者全員にあいうえの特製「ミュージアム・スタート・パック」をプレゼントしました。空白ページは参加者のみなさんが自分の経験を記録していくためのページであることを説明し、今日の体験をふりかえりつつ、ブックにまとめる活動を行いました。

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最後に、各グループから感想を聞きましたが、展覧会が印象深かったようで、午前中の活動ながらも、作品の細かい点の気付きや見た驚きを発表してくれました。

 

また、キッズドアの担当の方からも後日連絡をいただき、非常に暑い日で、熱中症が心配になるほどでしたが、「子どもたちは皆、本当に楽しかったようで、帰宅後保護者の方にいろいろ話をしたようです」とのメッセージを頂戴し、保護者の方々からの声も伝えてくださいました!

「とても楽しめたみたいで興奮気味に話してくれました。」
「木々との対話では須田さんの作品の“バラ”が良かったと。また、美術館の裏側にも入れて良かったとのことでした。」
「とても楽しかったようで、いっぱい話してました。ありがとうございました。」

 

今回のプログラムには、ミュージアムが初めてだという参加者が13名中10名ほど。ミュージアム・スタートを応援するあいうえのとしては、彼らのミュージアム・デビューを共にできたこと、とても嬉しく思います。あいうえの参加者が今後「あいうえのメンバー」として“戻ってこられる”、メンバー向けプログラム「あいうえのスペシャル」の案内をしたので、ぜひまた、上野のミュージアムを楽しみに戻って来てくれたらなと思います。

(Museum Start あいうえのプログラムオフィサー、東京藝術大学美術学部特任助手:長尾朋子)

プログラム: ミュージアム・トリップ | 投稿日: 2016年8月10日

主催/東京都、東京都美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学

共催/上野の森美術館、恩賜上野動物園、国立科学博物館、
国立国会図書館国際子ども図書館、国立西洋美術館、東京国立博物館、
東京文化会館(五十音順)

お問い合わせ:Museum Start あいうえの 運営チーム(東京都美術館×東京藝術大学)
Tel: 03-3823-6921(東京都美術館 代表番号)
Fax: 03-3823-6920
E-mail: aiueno@museum-start.info

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