活動ブログ

2018(平成30)年度 ミュージアム・トリップ

ミュージアム・トリップ:NPO法人キッズドア[中学生](2018.8.2)

「ふだん行けないところに行けて、とても楽しかった。」
シンプルな、でも実感のこもった感想を伝えてくれたのは、2018年8月2日に行われたミュージアム・トリップの参加者のひとり。

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そう、世界はひろく、たくさんのおもしろいものや人がいるのに、わたしたちはふだん、決まったところで生活をし、なかなかその外へ出ることができません。ひとりで出掛けるのが難しい、新しいことに挑戦する機会が少ないこどもたちなら、なおのこと。
だからこそ、出会いの宝庫であるミュージアムにこどもたちを招待し、世界がひろがるきっかけをプレゼントしたい。こんな思いから、さまざまな環境にあるこどもたちにミュージアム・デビューの機会を提供するインクルーシブ・プログラム、ミュージアム・トリップははじまりました。
これまで、児童養護施設や、経済的に困難な家庭のこどもを支援している団体、海外にルーツを持ちカルチャー・ギャップなどの困難を抱えるこどもを支援している団体など、各分野の機関と連携して実施しています。

昨年度、一昨年度に続き「NPO法人キッズドア」(以下、キッズドア)という、こどもたちに無料で学習支援を行なう団体と連携して実施しました。

参加したのは、キッズドア主催の学習支援塾に通う、中学生11名と、職員の引率者5名の計16名と、こどもたちの伴走役を担う「とびらプロジェクト」のアート・コミュニケータ(以下とびラー)15名。

この日のプログラムのテーマは、「新しい人やものとの出会い」です。

午前の活動では、東京都美術館の展覧会「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」展(以下、おべんとう展)を担当した学芸員の熊谷香寿美さんに出会い、作品鑑賞に出かけます。

お昼ごはんの時間は、おべんとう展の出展作家で料理家の大塩あゆ美さんが登場。この日のために作った特製弁当を通じて、料理家という仕事をこどもたちに紹介しました。

午後の活動は、東京藝術大学美術学部特任准教授の伊藤達矢さんの案内で、普段は入ることのできない石膏室を見学した後、大学院生の國清尚之さんに会うため建築科の研究室をたずねます。

様々な分野にたずさわる大人との出会いを通して、新たな自分を発見していくことがプログラムのねらいでもあります。

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《冒険のはじまり》
「おはよう」「暑かったでしょ」「よく来たね」。
朝10時。上野駅に集まるこどもたちをとびラーが出迎えます。一緒に東京都美術館のアートスタディルーム(以下、ASR)に移動するところから、1日がはじまりました。

ASRで最初に登場したのは”Museum Start あいうえの”プログラム・オフィサーの渡邊祐子さん。上野公園にはミュージアムと呼ばれる施設が9つも集まっていること。今日はそのうちの2つをめぐることなど、1日の活動の流れを説明します。

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次に、今日鑑賞する展覧会をつくった人・学芸員の熊谷香寿美さんが登場。
企画のはじまりから、かたちにしていく過程、作品や展示のみどころについて話しました。「この展覧会が、日常を、ちょっと違った視点で考えるきっかけになったらいいな」と熊谷さん。

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その後、テーブルごとに自己紹介ワークがはじまりました。
ミュージアム・トリップの特徴は、こどもたちと、とびラーが1対1のペアになり、1日を過ごすところ。実は事前に、とびラーから、ペアとなるこどもたちへメッセージが送られています。そのこともあり、「初対面だけど緊張しなかったよ」という子も。さらにワークで気持ちをほぐし、冒険の準備ができたところで展示室へ向かいます。

 

《展覧会の鑑賞:「おべんとう」展へ》
「あ、さっき写真でみた作品」「こんな素材なんだ」
こどもたちの声が聞こえるのは、世界各地のお弁当箱が並んだ展示の前。アートカードでみたお弁当箱を発見したら、みんなで鑑賞します。
まずはチーム鑑賞の時間。一緒にまわり展示室の雰囲気に慣れていきます。

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ひととおりみたら、北澤潤さんの作品《FLAGMENTS PASSAGE -おすそわけ横丁》(以下、《おすそわけ横丁》)へ。

《作品を一緒に楽しむ:《おすそわけ横丁》》
立ち並ぶカラフルな構造体。不思議なものが集まる、ごちゃごちゃとした市場のような空間。最初はおそるおそる進んでいた子も、だんだん、まわりのものに手を伸ばし始めました。

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「何か気になるものあった?」
その様子をみながら、とびラーが声をかけます。
「これ」
さきほどまで、ほとんど話さなかった男の子が指差したのは、中国語で描かれた壁飾り。
「見たことある」
「どこで見たの?」
おしゃべりがはじまります。

ここでは、こどもたちととびラーも「おすそわけごっこ」を体験。バザールにあふれるもののなかから、お互いに「おすそわけしたいもの」を1点選び、選んだものについて対話しながら、贈り物として仕立てます。

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「何が好きですか?」

そう問いかけたのは、一人の女の子。
「うーん、布かな」たくさんの端切れが揺れる一角で足を止め、とびラーが答えます。
「何色が好き?」「黄色」「これと、これと、これも黄色だ」「これ、柄がおもしろいね」「じゃあ、それにする」。手にとり、「広場」と称されたゾーンへ。そこに用意されたリボンやシール、包装紙などで、さきほど選んだ「おすそわけしたいもの」をラッピングしていきます。

隣のテーブルでも、手を動かしている子がいます。
「毎日、お弁当食べるってきいたから」ランチョンマットを紙で包み「秘密の予定だったけど、見えちゃっている。あと、選んだときに、これにしようって言っちゃったし」。
「でも嬉しいよ」隣に座るとびラーが笑って答えます。

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《おすそわけ横丁》を出たあとは、個別鑑賞の時間。それぞれ気になった作品を見に行きます。とびラーは見守りながら、ときに話しかけ、サポートします。

そうこうするうちに、気づけば12時、ランチタイムとなりました。

 

《ランチタイム:出品作家・大塩あゆ美さんの特製弁当!》
ASRに戻ったこどもたちを待っていたのは、出品作家の1人で、料理家の大塩あゆ美さんと、手作りの特製弁当!

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「ふだんはケータリングの仕事をしています。農家さんと直接やりとりして、いましか食べられない、旬の野菜をたっぷり使っています。」と大塩さん。
「おいしそう!」蓋をあけたこどもたちから歓声が。ズッキーニと玉ねぎのナムル。その下には、韓国風の鶏そぼろご飯。さらに、揚げたナスにおくら。ピーマン。ゆでトウモロコシ。ミニトマト。料理と一緒に、「いろんな味を楽しみながら食べてもらえたら」という大塩さんの思いもつまっています。

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こどもたちととびラー、そして大塩さんも一緒にテーブルを囲み、ランチタイムを過ごしました。

 

《藝大探検:石膏像の並ぶ空間》
「わー」
「すごい・・・」
自分たちよりも大きな石膏像が並んでいます。お昼ご飯のあと、東京藝術大学(以下、藝大)へ移動したこどもたちが足を踏み入れたのは、 美術学部絵画棟1階の大石膏室。
東京藝術大学特任准教授の伊藤達矢さんが出迎えます。

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「ここは、デッザンするための部屋。藝大は、1時間目から6時間目まで、美術しかやらない大学です」と伊藤さん。ここで学んでいるのは、どんな人なんでしょう?
そこに、大学院生の國清尚之さんが登場。美術研究科で建築を専攻しています。
「いまから、僕の研究室、アトリエに一緒に移動しましょう」。

 

《藝大探検2:建築科の藝大生の研究室へ》

「ようこそ、僕のアトリエへ」。
案内された一室。壁際には机が並び、定規やペンなどが置かれています。
「僕はここで、妖怪と建築の研究をしています」と國清さん。
「いるかいないかわからないものである“妖怪”をとおし、現在を疑って、ありえるかもしれない未来をつくる」ということに興味があるといいます。

「これが、僕が描いた妖怪です」。
「なんかかわいい〜」と声をあげたのは、女の子。
「かわいい妖怪がいてもいいんじゃないかなと思って」と答える國清さんに、「いや、もっと不気味なほうがいいよー」と別の子が答えます。

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國清さんが製作した模型をみせてもらい、こどもたちから國清さんへの質問タイム。

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「好きな妖怪はなんですか?」
「なぜ建築科に行こうと思ったんですか?」
そして、「将来の夢は?」
「建築家です。地元に戻って、活動したい。去年1年留学しました。そこで海外から日本をみる機会を得て、改めて、自分の原点から世界に挑戦したいと思った」と國清さん。その後も、こどもたちからの質問は途切れることなく続きました。

 

《ふりかえり:冒険ノートを書いて、見せ合って》
最後は、振り返りの時間。いつもは大学生が授業をうけている講義室で行いました。
「今日、みんなはいろいろな人やものに出会ったと思います。それを書きとめ、冒険の記録をつくりましょう」
さっそく手を動かすこどもたち。ちらしを切り抜いたり、絵を描いたり。見たこと、感じたことを記録していきます。

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そして、とびラーからこどもたちへメッセージカードをプレゼント。さっそくノートに貼る子もいました(カードはシールになっているのです!)

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挨拶をして、解散。暑い1日、みなさんおつかれさまでした!

 

<出会いをデザインするミュージアムトリップ>
今回のテーマは<「出会い」のデザイン>だったと渡邊さんは話します。
進路を意識しはじめる中学生が、「いろんな大人に出会う機会をつくりたい」。実施前の打ち合わせでキッズドアの担当の方から出された希望を受け止め、「出会い」を意識したプログラムが組まれました。

さらに、こどもたちが実体験にもとづいた話をきけるよう、関係者にもリクエスト。熊谷さんも大塩さんも國清さんも、それぞれが経験してきたこと、そのなかで考えてきたことを、こどもたちに語ってくれました。
美術館。学芸員。アーティスト。大学院生。そういった言葉だけをきくと、そうした存在に普段出会うことのない中学生は、ちょっととおい世界の出来事だと感じてしまうかもしれません。でも、その人、その作品と出会い、言葉を交わすことで、すこし身近な存在として感じられるように思います。

世界はひろく、たくさんのおもしろいものや人がいる。そして、自分も、そうしたものに出会うことができる。「ふだん行けないところ」ではじまったこどもたちの可能性をひろげる冒険は、今日で終わることなく、ふだんの生活とゆるやかにつながり、続いていくのではないでしょうか。どこかでおべんとうを食べるとき、今日のことを思い出すようなしかたで。

執筆|井尻貴子、編集|Museum Start あいうえの運営チーム

プログラム: ミュージアム・トリップ | 投稿日: 2018年8月2日

主催/東京都、東京都美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学

共催/上野の森美術館、恩賜上野動物園、国立科学博物館、
国立国会図書館国際子ども図書館、国立西洋美術館、東京国立博物館、
東京文化会館(五十音順)

お問い合わせ:Museum Start あいうえの 運営チーム(東京都美術館×東京藝術大学)
Tel: 03-3823-6921(東京都美術館 代表番号)
Fax: 03-3823-6920
E-mail: aiueno@museum-start.info

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