活動ブログ

2018(平成30)年度 ミュージアム・トリップ

ミュージアム・トリップ:多文化共生センター東京(2018.8.25)

2018年8月25日(土)にファミリー向けプログラム「ミュージアム・トリップ」が行われました。

「ミュージアム・トリップ」とは、家庭等の状況によりミュージアムを利用しづらいこどもたちと、その保護者をミュージアムに招待するプログラムです。対象となるのは、児童養護施設や養育家庭・ファミリーホーム、経済的に困難な家庭、外国にルーツのあるこどもたち。そのファミリーの方々を支援している団体と連携し行なっています。
本年度で3年目となるこのインクルーシブ・プログラムですが、今年はそれぞれの対象に応じて3つの団体(NPO法人キッズドアNPO法人多文化共生センター東京、NPO法人東京養育家庭の会)と連携して行うこととなりました。

 

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<団体との打ち合わせ:参加者を募るところからスタート>

今回は、荒川区にあるNPO法人多文化共生センター東京との連携で、外国にルーツのあるこどもたち14名、保護者の方3名が、東京都美術館に来館しました。
多文化共生センター東京は、外国にルーツのある方々を対象に日本語の学習支援を行なっている団体です。毎週土曜日には小学生や小学生以下のこどもたちとその保護者向けに「親子日本語クラス」、そして中高生世代を対象には「子どもプロジェクト」という学習支援教室をそれぞれ開催しています。今回の参加者は、それぞれの教室より募集をかけました。

日常生活の中でミュージアムに行こうという動機がない方々に、どのようにしたら「行ってみたいな」と思ってもらえるかを団体と相談し、試行錯誤を重ねながらチラシを作成しました。

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およそ2週間ほどの広報期間の後、無事に参加者が決定しました。
参加者が決まったのは、プログラムを実施する約3週間前の8月上旬です。実施までの期間に、参加者が話す言語や、配慮が必要な点などの情報を受け取り、当日こどもたちと一緒に活動するアート・コミュニケータ(とびラー)との準備が始まります。

 

<事前に「待ってるよ」というメッセージを伝える>

プログラム実施の2週間前。当日のプログラムでこどもたちを迎えるとびラー14名が東京都美術館のアートスタディールームに集まります。
この場で、連携先の団体のことや私たちが取り組む社会的課題や意義についてを話し合い、プログラム1日のことだけではない、その先に目指すゴールについてイメージを共有するようにしています。さらに、参加者についてやプログラム当日の流れを伝えます。
「ミュージアム・トリップ」は、こどもととびラーは必ず一対一のペアとなって活動します。これは、こどもたちにとって初めてのミュージアムでも安心できるよう、その子に寄り添い活動できる環境を整えることを意図しています。

とびラーは、プログラム運営のサポートという役割ではなく、あくまで主体的にこどもたちとともに活動する仲間”プレイヤー”として、関わります。

当日ペアとなるとびラーから、参加者一人一人に宛てて事前にお手紙を送付します。

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<プログラムのテーマ>

「ミュージアム・トリップ」は、オーダーメイドのプログラムです。

この日に鑑賞するのは、東京都美術館で開催している企画展「BENTO おべんとう展ー食べる・集う・つながるデザイン」。展覧会のテーマは、「お弁当を介して存在しているコミュニケーション」です。それにちなみ「だれかのために作るお弁当」をテーマとし、プログラムの流れを作りました。

多様な文化背景をもつ参加者だからこそ、お弁当へのイメージにどのようなものがあるのか、また展覧会を鑑賞した後にどのような表現となるのかを顕在化することを試みました。

また、団体からの「造形ワークがあると、参加者はより能動的に関わることができるのでは」というアイディアにより、造形ワークを取り入れました。今回の参加者は、日本語を母語とせず、まさに習得中のみなさん。言語だけに頼らないコミュニケーションとして、手でも楽しむことができる造形活動を取り入れ、当日に臨みました。

 

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それでは、8月25日当日の様子を紹介します。

 

<午前:展覧会を見る>

当日は朝から多文化共生センターに集合した参加者のみなさん。団体の引率者と一緒に、東京都美術館までやってきました。

正門で、とびラーのみなさんとご対面。初めての美術館に少し緊張した面持ちで入って行きました。

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まずはアートスタディルームでご挨拶です。グループごとにテーブルに着席し、今日一緒に活動するとびラーと自己紹介。事前に受け取っていたお手紙を持ってきたお子さんもいました。初めて会うとびラーともすんなり打ち解けている様子でした。
また、ミュージアム・スタートあいうえののプログラム・オフィサーである鈴木より、今日の活動の流れを紹介します。

「今日見に行く展覧会は『BENTO おべんとう展』です。”お弁当”をテーマとしたさまざまな現代アートの作品が展示されています。まずはその”お弁当”について楽しく知るために、歌って踊ってみよう!」

最初にみんなで行った活動は、歌って踊ること。《おべんとうDAYS》という小倉ヒラクさんによるアニメーション作品を見て、体を動かしました。

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最初は恥ずかしそうにしていたこどもたち。
だけど同じフレーズが出てくるたびに、少しずつ気持ちがほぐれて徐々に楽しそうな表情になっていきました。保護者のみなさんをはじめ大人がノリノリで踊り切りました。

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実はこのアニメーション作品のストーリーを辿ると、「BENTO おべんとう展」のストーリーを辿ることができます。お弁当とは、ただ食べ物を箱に詰めて持ち運ぶもの、というだけではなくて、そこには様々な工夫や多様性があることを伝えています。
また、このアニメーションでは今日のテーマでもある、「だれかのためにつくるお弁当」のあたたかさについても歌っています。今日の活動を通して、人と人のつながりを感じる機会にしたいと考えました。

 

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今回は中国籍の方々も多く参加していたため、中国語が話せるアート・コミュニケータに一部通訳をしてもらいながら進行しました。

 

「BENTO おべんとう展」のストーリーとともに、今度は具体的にどんなものが展示されているのかを紹介していきます。
「展示室には、色々な形のお弁当箱があります。日本のものもあれば、外国のものもあります。みんなのおうちで使っていたものもあるかな?
ここにあるアートカードの中から、自分が気になるお弁当箱を選んでみてください。どんなところが気になったのか、どんなおかずを入れてみたいと思うかなどをとびラーに話してみてね。」

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このように、展示室に行く前にアートカードなどのツールを使うことで本物を見る楽しみや期待を膨らませます。
「展示室にはいったいどんなものがあるんだろう?このお弁当箱はどれくらいの大きさなんだろう?早く見に行こう!」ととびラーに伝える参加者のみなさん。

ここからはとびラーとペアに、あるいは友達やとびラーとともにグループになって、それぞれのペースで展覧会を楽しみます。

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展示室に入るとまず現れるのは、さまざまな形のお弁当箱。
参加者のみなさんは、先ほどアートカードで見た「本物」の作品を目の前にして、大きさや作りなどに目を奪われていました。

外国のお弁当箱も展示されていたので、母国のものを見つけて、それについて語る場面もられました。

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次の展示室ではマライエ・フォーゲルサングさんの《intangible bento》という作品に出会いました。ここではお弁当の見ることができない側面や触ることができない側面について体感できます。
その案内人となるのが「おべんとうの精霊」。リボンで仕切られた空間が10種類あり、それぞれの部屋に小さな精霊がいてお弁当にまつわるストーリーを語ります。そのストーリーを聞くために「精霊フォン」を使って作品の世界を楽しみます。

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自分自身が精霊になって向こう側にいる相手と手を繋ぐことができる部屋“Connection”(繋がり)。食べ物は生産過程において多くの人々が関わっています。この部屋では、そういった食べ物における人と人の繋がりや愛情を、ハグや握手を通して体感することができます。
ここでも参加者はとびラーと触れ合いながら、コミュニケーションをとっていました。

次の展示室でも、とびラーとのコミュニケーションを育むワークを用意しました。
北澤潤さんの作品《FRAGMENTS PASSAGEーおすそわけ横丁》には、カラフルな垂れ幕と自宅にありそうな古いものたちや珍しいものたちが並び、まるで市場のような空間。美術館の中と思えない異空間に、参加者のみなさんは目を輝かせていました。

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ここで用意していたワークとは、”おすそわけ”を体感すること。
「だれかのために自分のものを渡す」というおすそわけの行為によって、ここにあるものたちは並べられています。その中から、「自分のペアに渡したいと思うもの」を選び”おすそわけ”し合う、ようは”プレゼントし合う”というワークでした。

ここで、たくさんのものを一つ一つじっくり見つめながら、お互いのことを考え、ものを選ぶみなさん。まだ知り合って間もない相手について考えるのは難しかったようですが、それでも相手が好きだと思うものや学ぼうとしているものを知るきっかけになり、”もの”を介してのコミュニケーションが積極的にできた様子でした。

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そのあとも、それぞれのペースでじっくり展覧会を楽しみゆったりと過ごしました。
とびラーは常にそんな参加者に寄り添い、安心して過ごすことができるように居続けました。

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<お昼:お弁当をみんなで食べる>

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展示室から戻ると、用意されていたのはカラフルなお弁当!

出品作家の一人、料理家の大塩あゆ美さんに今回特別に作っていただいたものです。大塩さんにはさらに、その料理に使用した野菜も持って来てくださいました。どんな野菜が入ってそのお弁当ができあがっているのか、五感をもって体験できるように用意しました。

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どのようなこだわりを持って今回のお弁当を作ったのかお話しいただくと、「今の季節である夏の野菜をふんだんに使いました」とのこと。また、普段から北海道の八百屋さんにお世話になっているそうで、その地域ならではの野菜がたくさん使われていました。

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お弁当にまつわる裏側のストーリーを聞いたうえで、みんなで声をそろえて…

「いただきます!」

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大塩さんも交えて、全員でお弁当を食べました。
後日のアンケートでも、「お弁当を食べるときが一番覚えています」「友達と一緒に食べたのはたのしかったです」「自分のペアとおべんとうをたべたのがたのしかった」と、多くのこどもたちがこのお弁当の時間のことを書いていました。

まさに、この展覧会のテーマであるお弁当における「共食」という体験をしてもらえたのではないでしょうか。

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お昼の時間には、積極的にコミュニケーションをとっている様子もうかがえました。「とびらボード」という磁気ボードを使って、日本語だけでなく絵や別の言語も駆使しながら、お互いにコミュニケーションをとっていました。

 

<午後:お弁当を作る造形ワーク>

 

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スペシャルなお弁当をみんなで食べ終えたところで、最後は自分たちでお弁当を作る時間です。

テーマは、「だれかのために作るお弁当」。今回の展覧会の出品作家の一人である小山田徹さんの作品《お父ちゃん弁当》に倣い、ワークを行います。《お父ちゃん弁当》とは、自身の幼稚園に通う息子さんのために、小学2年生の娘さんが設計図を書き、それを元に「お父ちゃん」であるアーティストの小山田さんが実際にお弁当にする、という作品。このように、だれかのために作りたいお弁当の設計図を作るワークです。

まずはワークシートを使って「だれかのために作りたい」お弁当の設計図を考えます。

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その次に、そのスケッチを元に様々な素材を使い、立体的な「お弁当アート」に仕上げます。

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ペアのとびラーに手伝ってもらったり、見守られたりしながら、作業を進めます。

そうして出来上がったお弁当はこちら!
「恐竜」の形を切り抜くのに苦労していましたが、とびラーとの共同作業により、無事に満足のいくお弁当ができたようです。

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その他にも、両親に送る「愛」のお弁当を作った参加者もいました。
最後にできあったお弁当を、みんなで鑑賞し合いました。

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<最後に、「またミュージアムに来てね!」>

 

こうして、展覧会鑑賞とお弁当を食べる時間と造形ワークと、盛りだくさんな1日が終わりました。

最後に、あいうえのより、こどもたちに「ミュージアム・スタート・パック」をプレゼント。
何度でも上野公園に来たくなる、冒険の道具です。上野公園にある9つの施設のオリジナル・バッジを集められたり、特別なプログラム「あいうえのスペシャル」に参加したり、ミュージアムをこれからも何度でも楽しむためのアシスト・ツールとなっています。そして、次回の特別プログラムが12月に実施予定であることを案内しました。

オリジナル・バッジをもらうことができるのは、秘密の呪文を唱えたとき。みんなで唱えて、とびラーより東京都美術館のバッジをプレゼントしました。
名残惜しそうに、とびラーとペアのこどもがお互いに言葉を交わします。

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「《おすそわけ横丁》でプレゼントしてもらったギフト、忘れません。ありがとう」
「次は12月ですね。また会いましょう。」と、参加者の方から感謝や再会の言葉を伝えてくれました。

 

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「Museum Start あいうえの」ではこどもたちのミュージアム・デビューを応援しています。デビューは一度ですが、その後もミュージアムに行きたくなるためのサポートをし続けることも行なっています。
参加者のみなさんが日常生活を過ごしていく中で、「またミュージアムに行きたいな」「あの日のことが楽しかったな、とびラーにまた会いに行きたいな」と思えるような、あたたかい”ミュージアム・コミュニティ”を作ることを目指しています。ミュージアムに行きたくなる理由が、”人”であっても良いはずです。

ミュージアムには、自分を受け入れてくれる”人(だれか)”がいて、まただれかによって作られた大切な”もの(作品)”がある
ーーその出会いを大切にできるよう、特に「ミュージアム・トリップ」というプログラムでは、様々な工夫を重ねています。

これから、この日のことを思い出してもらえるように、参加者のみなさん一人一人に宛てた事後のお手紙を送る予定です。
またみなさんとアート・コミュニケータが、ミュージアムという場で再会できることを願って。

 


 

 

鈴木智香子|Museum Start あいうえのプログラムオフィサー

 

 

 

プログラム: ミュージアム・トリップ | 投稿日: 2018年8月25日

主催/東京都、東京都美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学

共催/上野の森美術館、恩賜上野動物園、国立科学博物館、
国立国会図書館国際子ども図書館、国立西洋美術館、東京国立博物館、
東京文化会館(五十音順)

お問い合わせ:Museum Start あいうえの 運営チーム(東京都美術館×東京藝術大学)
Tel: 03-3823-6921(東京都美術館 代表番号)
Fax: 03-3823-6920
E-mail: aiueno@museum-start.info

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