活動ブログ

2018(平成30)年度 ミュージアム・トリップ

ミュージアム・トリップ:NPO法人東京養育家庭の会(2018.10.7)

ミュージアム・トリップ:東京養育家庭の会(2018.10.7)

 

「美術館にはこどもと一緒になかなか行けないため、いいきっかけになるかなと思い申し込みました」
そうアンケートに記したのは、2018年10月7日に行われた「ミュージアム・トリップ」に参加したファミリーのひとり。

秋晴れとなったこの日、7組15名のファミリーが東京都美術館を訪れました。そのうちこどもは、年長児〜小5の7名。8名のアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)と、3名のスタッフが迎えました。

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この日行われたのは「ミュージアム・トリップ」。家庭等の状況によりミュージアムを利用しにくいこどもたちと、その保護者等をミュージアムに招待するオーダーメイドのプログラムです。
これまで、児童養護施設や、経済的に困難な家庭のこどもを支援している団体、海外にルーツを持ちカルチャー・ギャップなどの困難を抱えるこどもを支援している団体など、各分野の機関と連携してきました。今回は養育家庭(養育里親)を支援するNPO法人東京養育家庭の会と連携し、プログラムを実施しました。

実は、ミュージアム・トリップとしては、今年3月にもNPO法人東京養育家庭の会と連携しプログラムを実施していました。前回は一つの支部からの参加者募集でしたが、今回は東京都全域から参加者を募りました。そのなかでリピーターのファミリーが2組いたのは、プログラム関係者にとって、とても嬉しいニュースでした。とびラーも再会を楽しみにこの日を迎えました。

 

<冒険のはじまり>

「おはようございます」「久しぶり、覚えてるかな?」「○○さん、今日はよろしくね」

朝10時。東京都美術館の正門に集まったファミリーをとびラーが出迎えます。初めて参加する子がほとんどですが、リピート参加の子もいます。
ミュージアム・トリップの特徴の一つに、参加するこどもととびラーが、ペアになって活動することがあります。今回、こどもたちには、当日ペアとなるとびラーから事前に手紙が送られていました。手紙をみて、とびラーの名前を確認し挨拶を交わしたら、一緒に館内のアートスタディルーム(以下ASR)に移動します。

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「上野公園にようこそ!」

ASRでは、Museum Start あいうえの プログラムオフィサーの山﨑日希さんが待っていました。

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まずは、1日の活動について説明します。ファミリーでの参加ですが、こどもとおとなは別々のプログラムが予定されています。

こどもたちの活動は、次の3ステップ。

1、全体説明(美術館の過ごし方を知る時間、作品を知る時間)
2、美術館体験!アートを体験しよう(とびラーと一緒に「BENTO おべんとう展」を楽しむ時間)
3、今日の想い出づくり(冒険ノートづくり&缶バッジづくりの時間)

おとなも、ほぼ同じ内容ですが、展覧会鑑賞のまえに、Museum Start あいうえの及びとびらプロジェクトについての説明がある点、また展示室では個別鑑賞となる点がこどもとは異なります。

展示会場へ行く前の準備がはじまりました。こどもたちに大切な冒険の道具であるミュージアム・スタート・パックが渡されます。

「『これおもしろい!』『なんだろう?』ビビビッとくるものを見つけたら、その前で立ち止まってみて。パックに入っている冒険ノートに、気づいたことを書き留めてみて」と山﨑さん。使い方を聞くこどもたちの顔は、真剣そのもの。

「今日、鑑賞する展覧会は、『BENTO おべんとう展』です!」と、山﨑さん。

BENTO おべんとう展は、日本独自の食文化「お弁当」と「食べること」のコミュニケーション・デザインについて、現代作家の作品を通して見つめる展覧会です。現代のアーティストによる、見る・聞く・触れる、参加体験型の作品が多く展示されています。ここで特別に、出展作品でもある、小倉ヒラクさんによるアニメーション作品《おべんとうDAYS》がスクリーンに映し出されました。会場に行く前に、みんなで鑑賞。

その後、《おべんとうDAYS》にも登場していた、いろいろなお弁当箱の写真(アートカード)がテーブルごとに配られました。

「どのお弁当箱が気になる?」とびラーの問いかけに、こどもたちがカードに手を伸ばします。

ひとつ選んだら、同じものをコンタクトシートから切り取って、冒険ノートに貼ります。

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展示室での過ごし方「触らない、走らない、小さな声で話そう」を確認したら、活動開始。こどもたちはとびラーと一緒に展示室へ向かいます。

 

<おとな:プロジェクトへの理解を深める>

一方ASRでは、おとな向けに、とびらプロジェクト / Museum Start あいうえのプロジェクトマネージャ伊藤達矢さんによる、プロジェクトについての説明がはじまりました。タイトルは「子どもと一緒に美術館体験」。

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「どんなふうに、美術館、博物館を楽しんでほしいかをお伝えします」と伊藤さん。

とびらプロジェクト / Museum Start あいうえのプロジェクトの立ち上げから運営を中心的に担ってきた一人です。
そもそものプログラムの主旨や、ふだんとびラーがどういう活動をしているのか。そして、プロジェクトが大切にしているものについて、過去に行われたプログラム「ティーンズ学芸員」の記録動画の上映等をとおし、お伝えしました。「ティーンズ学芸員」は10代のこどもたちが半年ほどかけて、オリジナルのオーディオガイドをつくるというもの。こどもたちはプログラムをとおし、いろいろな見方を知り、自分ならではの視点を獲得していきます。

ここで大事なのは「みて思ったことを声にする。それを聞いた人が、あ、それを声にしてもいいんだ、と感じること」だと伊藤さんは言います。「それが、実感を伴ってわかるようになるといいんですね」。<よく見ること・よく聞くこと・よく語ること>がとても大切。でも、そうはいっても、人は簡単に語ることはできません。わからないのは恥ずかしかったり、間違ったことを言ってしまうんじゃないかと思って怖かったりします。

だからこそ、Museum Start あいうえのの活動には、とびラーが伴走します。
アート・コミュニケータであるとびラーの役割は、人が安心して話せる環境をつくること。「対話をとおして、作品を見る。作品を介して、社会とつながる。そこを目指す活動なのです」と伊藤さん。

そうした思いをうけてくださったのか、1日の最後に「見て感じたことを語ることで、思いを共有する楽しさを感じました」と伝えてくださった保護者の方もいらっしゃいました。

 

<こども:とびラーと一緒に展覧会を楽しむ時間>

その頃、こどもたちは、展示室で作品を鑑賞していました。

マライエ・フォーゲルサングさんの作品《intangible bento》を鑑賞しながら展示室のすみのベンチに座り、冒険ノートを開いた子がいます。隣でとびラーが鉛筆を差し出します。気がついたことがあると、その度にとびラーに声をかけて2人でベンチに座ります。
「これはどうやって書くの?」わからない言葉があるととびラーに一つずつ確認をして、丁寧にノートに書き留めます。

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北澤潤さんの作品《おすそわけ横丁》で、一人の子が、たくさん置かれた雑貨のなかから紙カップを見つけ、指差しました。

「お弁当の」
「あ、そうだね」とびラーがこたえます。
「おかずを入れるのに、使うね」
「あ、これ、みてみて、おすし」フェルトでできた、おすしの置物を見つけました。
今度はしゃがみこみ、「これなあに?」つられてとびラーもしゃがみこみました。
「なんだろう?」

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小山田徹さんの作品《お父ちゃん弁当》。「パンダ」と題されたお弁当のパネルの前で、動物園に行ったときのことを話し出した子がいます。隣でとびラーが頷いています。

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展示室での過ごし方は、ペアごとにさまざま。ここでは、急ぐ必要はありません。ひとりひとりが好きなものを選び、自分のペースで観ることができます。心ゆくまで展覧会を楽しめたからか、展示室からASRに戻るとき、廊下をスキップですすむこどもの姿がありました。

 

<冒険ノートづくり>

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「わたしにとって、すごい、びっくり、ふしぎだったこと❤」
「わたしが思っていたお弁当箱より大きかったです」

ASRに戻ったこどもたちは、冒険ノートづくりに取り組んでいます。
絵を描くのが大好きという子は、お城型のお弁当箱を紙面いっぱいに描いています。

ちらしに掲載されたお弁当箱の写真を切り抜いて貼る子や、作品の名前や感想を文章で書く子もいます。記録のスタイルはさまざまです。

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実は朝、初めての美術館やおとなたちに緊張したのか、なかなか保護者と離れられない子もいました。
いまは、おしゃべりしながら手を動かしています。

「ここにお花描きたい」「どうぞ、どうぞ」ととびラー。
「何色だと思う?」「ピンクとかどう?」ほかの子がこたえます。

同じテーブルのこどもたち同士にも自然とおしゃべりが生まれています。ピンク色の色鉛筆でお花を描き始めました。
「みて、できたー」満面の笑顔でとびラーに報告します。

 

<缶バッジづくり>

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ノートづくりが終わったら、缶バッジづくり。缶バッジ作成マシーンの前に用意されたのは、《intangible bento》に登場する精霊のイラスト。
気になるものを1つ選び、色を塗ったり、文字を書いたりした後に切り抜き、缶バッジにします。

「ありがとう、嬉しい!」とびラーの声が聞こえます。
手をつないでいる精霊のイラストを選び、とびラーと自分の名前を書き込み、缶バッジをつくった子がいました。一期一会の出会いを、美術館で過ごす時間を、できるかぎりよいものにしたいという思いは、どのとびラーも同じ。だからこそ、こどもたちの楽しんでいる様子は、何よりも励みになります。

「そろそろ帰ってくるかな」
こどもたちが気になりだした頃、おとなもASRに戻ってきました。

「これ、みてー」さっそく冒険ノートを見せる子たち。
それぞれの冒険の共有がはじまりました。

「ミュージアムはどうでしたか?」終わりの時間が近づき、山﨑さんが声をかけます。

「楽しかったー」「まだ帰りたくないー」

「今日からみんなは、あいうえのメンバーです。また、いつでも来てくださいね。」メッセージをおくり、全員で記念撮影。こうして、1日のプログラムが終了しました。

 

<もう一度、ミュージアムへ>

けれども、実はまだ続きがあるのです。Museum Start あいうえのでは、「あいうえのスペシャル」という、ミュージアム・デビューをしたこどもたちとそのファミリーが、ふたたび上野公園で冒険を楽しむための特別プログラムを実施しています。

今回、ミュージアム・トリップに参加したこどもたちに『12/15実施:あいうえのスペシャル=過去のプログラム参加者が再びミュージアムに集まる日』の招待状とお手紙をお送りする予定でいます。ペアのとびラーからの、一人一人へのお手紙。また来てね。美術館で待っているよ。それは、決して表面上の言葉ではありません。「あいうえのスペシャル」といったプログラムを実施することにより、本当に実現可能なかたちをつくっています。そうした再会も含め、ミュージアム・トリップなのです。

 

自分の居場所と感じることができる場所が、社会のなかで増えていくこと。それは、こどもたちの生きる力につながります。
こどもたちや、ファミリーのことを「ハード面だけでなく、ソフト面でも社会的に支えていけるしくみが大切だなぁとあらためて思いました。」と語るのは、この日参加したとびラーの一人。

「ミュージアムで作品や、とびラーと出会うこと。新しい人やモノや出来事に触れ、日常では得られない多様な世界に出会うことは、こどもたちが社会に参加する力の獲得を支援します」と、山﨑さんは言います。
「ひとつひとつの出会いは、大きな社会の中では小さいのかもしれませんが、その活動を〝ミュージアム〟が担っていることって、すごく意味のあることだと改めて感じています」

 


 

執筆|井尻貴子

編集|Museum Start あいうえの運営チーム

プログラム: ミュージアム・トリップ | 投稿日: 2018年10月7日

主催/東京都、東京都美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学

共催/上野の森美術館、恩賜上野動物園、国立科学博物館、
国立国会図書館国際子ども図書館、国立西洋美術館、東京国立博物館、
東京文化会館(五十音順)

お問い合わせ:Museum Start あいうえの 運営チーム(東京都美術館×東京藝術大学)
Tel: 03-3823-6921(東京都美術館 代表番号)
Fax: 03-3823-6920
E-mail: aiueno@museum-start.info

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