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2019年度 スペシャル・マンデー・コース

\特別レポート!/
スペシャル・マンデー・コース@伊庭靖子展 まなざしのあわい
ゆうかり教室(2019.9.30)

「こんにちは!」
「東京都美術館にようこそ!」

 

東京都美術館のアートスタディルーム(以下、ASR)に入ってきたこどもたちに、美術館の学芸員やスタッフ、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)たちが声をかけます。

やってきたのは、多摩市立教育センター ゆうかり教室の、小学生6名、中学生7名、保護者7名、引率7名の計27名。
そこに、プログラムの伴走役を担う9名のとびラーと、スタッフが加わります。

今日は、学校向けプログラム「スペシャル・マンデー・コース」の日。展覧会の休室日(月曜日)の東京都美術館を舞台に、特別な鑑賞授業が行われます。

 

〈今日の活動はなんだろう?〉

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「みんな、バスはどうだったかな? 美術館に入って、急に緊張しちゃったという子もいるかもしれないけど、リラックスして、楽しんでいってね。」

そう話しかけたのは、東京藝術大学美術学部特任助手/Museum Start あいうえのプログラム・オフィサーの、鈴木智香子さん。プログラムの説明が始まりました。

「今日の活動は次の4つのステップで進みます」

1.      触りながら見る時間
2.      「指令書」を使って見る時間
3.      ひとりで見る時間
4.      冒險ノートを書く時間

 

「今日、みんなが鑑賞するのは、『伊庭靖子展 まなざしのあわい』(2019年7月20日〜10月9日)。10年くらい前に作られた作品から、できたてほやほやの新作まで並んでいます。」

展覧会のタイトルにある言葉「まなざしのあわい』を手がかりに、事前学習をおこなってきたこどもたち。真剣に耳を傾けています。

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「今日は、とびラーのみなさんも、ゆうかり教室のみんなが来るのを楽しみに待っていました。とびラーは、美術館の楽しみ方をいっぱい知っている人たち。みんなと一緒に活動します。」

全体の説明が終わり、自己紹介タイムが始まりました。

ここからは、とびラーとこどもたちがペアになって、活動します。

 

ゆうかり教室は、多摩市教育委員会が開室している、適応教室。何らかの理由で学校に行けない、公立小・中学校の児童・生徒のための教室です。在籍するこどもたちの中には、外出する機会、先生や親以外の大人と出会う機会が少ない子もいます。

そこで、今回は、先生の希望もあり、とびラーと子どもたちがペアになって鑑賞プログラムを行うことになりました。

また、先生だけでなく、希望する保護者も一緒に来館できます。さらに保護者の方にも、学芸員によるミュージアムで起こる学びに関するレクチャーや、対話を重視した鑑賞法を体験してもらうことができます。

 

〈展示室へ〉

いよいよ、展示室へ。

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少し薄暗い照明のなか、作品が展示されています。

「何か気になるのあった?」と尋ねるとびラー。

「これ」とこどもが答えます。

「どこが気になった?」「この瓶、お酒が入っているみたい」「どんなお酒?」「赤ワインとか。」

 

他の子が、また別の作品の前で足を止めています。

「これこれ、すごい。なんかミニチュアっぽい」と言う子。

それを受け、とびラーが質問します。

「そうだね。なんでミニチュアっぽく見えるのかな?ちょっと分析してみて。」

少し考えた後、こどもが口を開きました「立体感がなくて、のっぺりしているから。」

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そこここで、作品を前に対話が始まりました。

こどもたちのなかには、美術館を訪れるのが初めての子もいます。鑑賞の時間では、少しずつ対話しながら、ゆっくり展示室の雰囲気に慣れていきます。

 

〈保護者も、展示室へ〉

保護者のみなさんも、展示室にやってきました。

1点の作品の前に集まり、東京都美術館学芸員/アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さんが、話し始めました。

「最初に1、2分、静かにじっくり見る時間をとりますね。作品を見るっていうと、どうするの?と思う方もいるかもしれません。でも、皆さん、観察したことはあると思います。朝顔の観察とか。けれど、日常にあるものについて、そんなふうに観察したことは実はあまりないのではないでしょうか。」

まずは、それをやってみる時間です。

 

〈グループで、言葉を交わす〉

1点の作品の前で、4組のこどもたちが集まっています。作品に描かれているのは、大きなカップ。

「白? 透明かな?」と尋ねるとびラーに、「カップの上の方が透明に見える」と一人の子が答えます。

「そんな感じする?」と、また別のとびラー。

「うん」他の子が頷きます。

小さな声で話す子に、耳を傾けていたとびラーが周りにも伝えてくれました「〇〇ちゃんも、透明じゃないかって。カップの後ろのお皿の模様が透けて見えるから」。

作品を前に、複数の視点による言葉がゆっくりと交わされていきます。

 

〈触りながら見る時間、「指令書」を使って見る時間〉

こどもたちが展示室に慣れてきた頃、「ジャジャジャーン、ちょっとこういう物を触りながら、作品を見てみよう」と、とびラーが、袋から、布を取り出しました。

目の前の作品には、同じような布が描かれています。

「絵に似ている」

「どう? 触ってみてどんな感じがするかな?」

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別の作品の前。「今度は、これを使ってみようか」と、とびラーが取り出したのは、「指令書」です。そこには、作品を見るための様々な「指令」が書かれています。こどもが手にしたカードに書いてあったのは・・・

1. 鼻から息を大きく吸って、お腹のそこから空気をゆっくり吐いてみよう。

2. 頭の中で、カップをそっと持ち上げて、そっと置くのを想像してみよう。

3. そのとき、どんな音がした?

片手に持ち、作品をじっと見つめています。

 

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スペシャル・マンデー・コースでは、学校との事前打ち合わせのなかで先生方の要望や懸念点を聞き取り、当日、こどもたちがより作品鑑賞を楽しめるよう、様々な提案をしています。

今回の「触れるツール」や「指令書」も、そのひとつ。「触れるツール」では、作品のモチーフになっている、布や陶器を実際に触ってみることによって、作家がまさに描こうとしたであろう質感や触感について、よく見るようになることを促します。また、「指令書」では、「指令」により自分では思いつかないような方法で作品をじっくり見ることができます。

 

〈ひとりでじっくり向き合う時間〉

ペアでの鑑賞を楽しんだあとは、ひとりで見る時間。20分間、「つぶやきシート」を片手に、それぞれの過ごし方で過ごします。

一枚の絵の前で立ち止まった子に、とびらーが声をかけます「近くに寄ってもいいし、ちょっと離れたところで見てもいいよ」。

作品の前、座り込み、ボードに何か書き込む子。

少し鉛筆を動かしてはまた作品を見て、少し書いて、うーんと伸びをして、また鉛筆を動かしています。

ほとんどの時間を、1つの作品の前で過ごす子もいました。

 

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保護者は、自由に見る時間。自然と一緒に話しながら見ている方もいました。

 

 

〈冒險ノートの時間〉

時間になり、ASRに戻ってきたこどもたちに、「ミュージアム・スタート・パック』が配られました。

「ミュージアム・スタート・パック」は、こどもたちがミュージアムを楽しく活用するためのスターター・キットです。「ビビハドトカダブック」というガイドブックや「冒險ノート」などのアイテムが入っています。詳しくはこちら

 

冒險ノートを書く時間です。

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今回は、書くことに抵抗がある子でも作業を進めやすいよう、シールなどを用意しています。「次の手順でノートを書いてみようね。」とびラーも、必要に応じサポートします。

1. 作品シールを貼る

2. キャプションシールを貼る

3. 言葉シートから、3つ言葉を選んで貼る

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展示室で書いてきた「つぶやきシート」を見ながら、こどもたちはノートを書いていきます。

どんなのができたかな?

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最後に、「Museum Start あいうえの」のコンセプト・ムービーを鑑賞し、終了。「ぜひ、これからも何度でも上野に来て、ミュージアムを楽しんでくださいね」と鈴木さん。

前に出て、「ありがとうございました!」と挨拶をするこどもたち。先生の提案で集合写真を撮影し、プログラムが終了しました。

「とびラーさんが、生徒一人一人に1対1でついてくださったのがよかった」と語るのは、ゆうかり教室の杉浦幸子先生。

「こどもたちにとって、先生でも親でもない大人と関わる貴重な機会になりました。普段あまり話さない子も、とびラーさんと話していたし、笑顔が見えました。いろんな刺激を受けて、成長したと思います」。

「保護者が一緒に参加できたのもよかった。特に、小学生が参加するには、保護者の後押しが重要だと感じています」と杉浦先生は言います。

 

 

「スペシャル・マンデー・コース」では、無料の送迎バスが利用できるため、公共交通機関を利用しにくい学校や、遠方の学校からの参加もあります。そうしたバスの利用や、当日の鑑賞プランについては、申し込み校の先生方と事前に打ち合わせをし、それぞれの学校にあった提案をしています。そのため、同じ展示でも学校等によって、プログラムの内容を変えることもあります。
また、<事前学習>→<当日>→<事後学習:大切なプレゼント「ミュージアム・スタート・パック)>という3つのステップで、こどもたちが体験を深めていけるようプログラムをデザインしています。

さらに、当日の鑑賞はとびラーが伴走します。“とびラー”とは、ガイドではなく、作品を介した対話を通し、みんなの関心を引き出す、アート・コミュニケータ呼ばれる人たちです。彼らによって、こどもたちひとりひとりのペースにあわせた鑑賞が可能になります。

 

ミュージアムで過ごした時間、作品との出会い、そこで生まれた対話が、こどもたちの日常につながって、日常の出来事と響き合っていく。その意味で、「スペシャル・マンデー・コース」は、当日だけで終わらない、こどもたちの可能性を広げていく未来につながるプログラムなのです。

 

 


 

 

執筆|井尻貴子

編集|Museum Start あいうえの運営チーム

<井尻貴子さんのプロフィール>
早稲田大学第一文学部(美術史)卒業、大阪大学大学院文学研究科(臨床哲学)博士前期課程修了。財団法人たんぽぽの家、公益財団法人東京都歴史文化財団東京文化発信プロジェクト室、NPO多様性と境界に関する対話と表現の研究所事務局長等を経て、現在はフリーランスでアート、哲学に関わるプロジェクト等の企画、運営、コーディネート、記録編集執筆などを行う。NPO法人こども哲学おとな哲学アーダコーダ理事。


「あいうえの」は、すべてのこどもたちの、ミュージアム・デビューを応援するプログラム。たくさんの不思議に出会い、自分の中の“なぜ”を他の人と共有することで、世界が広がっていく!それは、どんな子にとっても大きな経験となるはず。あなたもぜひ、あいうえのへ!

 

プログラム: スペシャル・マンデー・コース |
投稿日: 2019年9月30日