上野へGO! ステップ1オンライン(2020.11.8)
オンライン上で作品を鑑賞できるファミリー向けのプログラム「上野へGO!オンライン」が、11/8に開催されました。
8月にひきつづき、今回で2回目の開催です。
これは、オンライン上で世界中どこからでも「ミュージアム・デビュー」の第一歩を踏み出すことができる、学べて楽しいデジタルネイティブ世代のためのプログラムです。
時間になると、次々と参加者がオンライン上に集合してきました。
プログラムが始まるまでの時間は、進行役が集合してきた参加者一人ひとりに声をかけ、プログラムにスムーズに参加できるよう、zoomの簡単な操作方法を一緒に練習します。
プログラムが始まると、進行役から今日の流れや絵を見るときの大切なポイントと、今日みんなと一緒に活動をする仲間「とびラー」の紹介がありました。
「とびラーさんは、ものをよーく見ることの達人です!今日はとびラーさんがみんなにいっぱい質問するので、みんなも絵を見ていて気が付いたことをたくさん教えてくださいね。」
プログラム中、こどもたちの活動には保護者でも先生でもない大人「とびラー」が伴走します。こどもたちのちょっとした気づきを拾ってくれたり、ほかのこどもたちと一緒にその意見を味わったり。鑑賞における気づきや発見を深めてくれる役割を担います。
いよいよ鑑賞の時間!こどもたちととびラーはグループに分かれ、BOR(ブレイクアウトルーム)内で作品を鑑賞をします。
20分間の鑑賞タイムを終えたら、グループ鑑賞中に出た意見を共有します。ほかのグループでは、どんな意見が出たのでしょうか?実際に出た意見の一部をご紹介します。
【1作品目】 作者不明《チャールズ5世の子どもたち》1600-1700年 油彩 「KING&QUEEN」展 上野の森美術館 (会期:2020年10月10日(土)~2021年1月11日(月・祝))
「みんなの向いてる方向、赤ちゃんの様子から、写真を撮ってるみたい」
「背景の色がオレンジがかっているから、夕方なんじゃないか?」
「洞窟みたいなとこで雨宿りしてる?でも雨は降ってないな。星が見えるから晴れてるんじゃない?」
「人物と犬の関係は、兄弟?番犬?着ている服からお金持ちなんじゃないか?」
【2作品目】 尾形光琳《風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)》1700年代 日本画、金箔 東京国立博物館 総合文化展
「右の方の人物の足の形が、走ってるみたいに見える、左の人を追いかけてるのかな?空の上で鬼ごっこしてるのかな?」
「二人がにらみ合ってるので、戦っているのかも?」
「リボンがヒラヒラしてるから、風が吹いてるのかな。どちらから吹いてるだろう?」
「(右の人物が持っている布の膨らみを見て)たこあげをしたときにこんなふくらみがあった。だからこの神様みたいな人は風を捕まえてるんじゃない?」
…
このほかにも、たくさんの視点から気づきを共有してくれました。
みんなで見ることで謎が深まったり、新しい発見があったり、一つの答えにたどり着いたり、納得したり…、グループ内で見ることの楽しみが広がっていったことが伝わりました。
つづいて、ミュージアム・スタートパックと上野公園の紹介をし、
最後に記念撮影をしてお別れです。
「上野公園には、プログラムで今日見た作品が展示してある上野の森美術館や、東京国立博物館をはじめとした9つの文化施設があります。みんなもぜひ、ミュージアム・スタートパックを持って、冒険にでかけてみてくださいね。」
つぎは12/5の「上野へGO!」リアルでお会いしましょう! (金盛郁子)
————————————————————————————————-
今回はインターンの藤本からも、11月8日の様子をレポート!
————————————————————————————————-
今回は「オンラインでの場作り」に注目してみたいと思います。
作品をひとりでじっくり見るのも素敵ですが、鑑賞を経た心の動きや気づきは、誰かに話したくなるものです。そんなとき、安心して発話できる場があるといいですよね。ですが、どこでも話せるかと言うとそうでもありません。「こういうことを言ってもいいのだろうか」「他の人の意見に合わせるべきだろか」と思ってしまう場だと、人はいくら言いたくてもなかなか言えないのではないでしょうか。
では、自由な意見や感想を引き出すことができる場を作るためには、具体的にどのようにすればいいのでしょう。そもそも安心できる場とは一体何なのでしょうか。そんな疑問から出発して、進行役の河野佑美や鈴木智香子、とびラーの皆さんの対応から考えていきたいと思います。
- 画面のなかで気持ちを表現する
当たり前なのですが、オンラインでは限られた範囲しか画面には映りません。リアルでの対面のように、単に話をするだけでは少々寂しい気持ちになってしまうものです。画面いっぱいに顔が映ったとしても、その範囲からでは相手の反応をうまく読み取ることができません。
「来てくれて嬉しいよ!」「楽しもうね!」という気持ちを、画面越しの相手に伝えるには画面範囲を超えてしまいそうな大きなジェスチャーが重要になります。河野と鈴木のリアルでの様子を傍から見ると、少々オーバーに見えるかもしれません。ですが、画面で見るとこのようになります。
とにかく、エネルギッシュなプログラムが始まりそうな予感がします・・・!
身体を大きく動かす方が、積極的に相手に向き合っているのが伝わることがわかります。とくに、鑑賞会が盛り上がったグループでは、両手を使って説明をする、とびラーの姿がありました。
手を使って、鑑賞プログラムの流れを確認するとびラーの方々。
画面の前で、いつもより大きな反応をしたとしても、手が下にある状態でのジェスチャーだと、相手に受け取ってもらえないことがあります。「(画面に)映そう!」と強く意識しないと、手を顔の近くまでなかなか持っていけません。
わたしたちは、リアルで人と話すときに相手の顔や声の表情だけで判断しているわけでは決してなく、相手の身体の揺れや手の動きなど、身体全体から何かしらの相手の気持ちを感じ取っています。限られた四角いフレームのなかで、自分をいかに表現し、相手に伝えようとするか。オンライン上のコミュニケーションの醍醐味です。
- リアルよりも効果的だったこと
もうひとつ、参加者だったら嬉しいだろうなと気づいたこと。それは、名前を積極的に呼んでいたことです。点呼のときはもちろんですが、鑑賞会がはじまってからも頻繁に名前を呼んで確認していました。
たとえば一つ目の作品鑑賞にて、
参加者Aさん“真ん中に女の子がいる”
参加者Bさん“女の子じゃなくて、ズボンを履いているから男の子だと思う”
とびラー“さっきAさんが見つけてくれた真ん中の人について、Bさんは服装を見てくれました”
参加者Aさん“うしろに景色がある”
参加者Cさん“うしろの背景はオレンジっぽい色があるから夕焼けに見える“
とびラー“さっきAさんが発見してくれた背景について、Cさんは色に注目して夕焼けの風景といってくれました”
参加者にとって、「さっき○○さんが・・・」と名前を挙げてもらえること、そして自分の気づきが他の人の意見と結びつけてもらえることは、鑑賞プログラムに参加しているという実感につながります。
自身の気づきや意見を尊重してもらうこと。それは、「何を言ってもいい」という安心感を作り上げます。リアルの鑑賞でも、他の意見と結び付けることは場を作るための大切な要素です。ですが、参加者同士が離れているオンラインだからこそ、嬉しさも倍増し、より効果的に機能していたのではないでしょうか。
日時:2020年11月8日(日)
午前 | 10:30-12:00 対象:小学校1年生~3年生
午後 | 13:30-15:00 対象:小学校4年生~6年生、中高生
場所:東京都美術館アート・スタディ・ルーム(Zoomによるオンライン配信)
進行:午前 河野佑美(東京都美術館 学芸員)、午後 鈴木智香子(Museum Start あいうえのプログラム・オフィサー/東京藝術大学 美術学部特任助手)
参加者:こどもと保護者28組56名(午前)、24組48名(午後)
とびラー:14名
執筆 | 金盛郁子(Museum Startあいうえの プログラム・オフィサー)
執筆|藤本奈七(東京都美術館インターン)
投稿日: 2020年11月8日