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2020年度 うえのウェルカム

美術館とSDGs:美術館の社会的役割を考える学校プログラム
北区立田端小学校6年(2020.12.17)

2020年の「Museum Start あいうえの」の学校プログラムは、
コロナ禍により受入校数を限定し研究授業として実施しました。

様々な学校から問合せをいただきましたが、その中でも北区立田端小学校とは、
どのような形で授業を実施できるか、時間をかけて協議を重ねてきました。

最終的に来館する形で実施することになり、具体的なプログラム内容を話し合う
席で担当の先生がつぶやいたのは、

 

美術館の社会的な役割を、少しでもこどもたちが理解できる体験をつくりたい

 

そこでテーマを、「ミュージアムとSDGs」にしました。
これからの社会における美術館の役割や意義について考えるプログラムです。

 

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ちょうど6年生は社会の授業で「SDGs(持続可能な開発目標 サステナブル・デボロップメント・ゴールズ」について学んでいる最中とのこと。

その「SDGs」と「美術館(ミュージアム)」をどのように繋げ、そしてどのような活動に取り組んだのでしょうか。

当日の様子をご紹介します。

 

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|美術館で100年後に遺したいと思うものを見つけよう

 

授業のねらいに対し、こどもたちが主体的に取り組むことができるような
活動テーマを設定する必要があります。

そのテーマを、今回は「100年後に遺したいと思うものを美術館で見つけよう」という内容にしました。

 

社会の中で大切だと思うものを遺す機能を持つミュージアム、

そのミュージアムにあるものを見つめて、自分だったらどんなものを大切にしようと思うかー

どんなものを100年後に遺そうと思うかーー

ミュージアムの機能を自分事として捉え、その社会的役割を理解するための活動テーマです。

 

その活動テーマで、今回見つめる「ミュージアムにあるもの」とは、
美術館の建築(建物)と、野外彫刻作品です。

どちらも、こどもたちにとっては馴染みの薄い対象物かもしれません。

 

そのために、活動の導入として紹介したのが、「世界文化遺産」でした。

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世界文化遺産の紹介と、東京都で唯一登録されている国立西洋美術館を紹介しました。

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ミュージアムの建物の歴史の中で、国立西洋美術館がどのような理由で世界文化遺産に登録されたのか、
そして東京都美術館の歴史との関わりについても紹介しました。

 

建築物には、どのような文化価値があるのか、

そもそも、「遺す」とはどういう意味があるのかーー

具体的な活動に入る前に、大きな問いを投げかけます。

 

東京都美術館を設計した前川國男は、国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエに学んでいたことから、東京都美術館の建物には、ル・コルビュジエの近代建築の考えや概念が活かされていること、

建物自体を遺し伝えていくことで、100年近く経った今でも、

その概念やこだわったところに触れることができることを伝え、活動の導入としました。

 

最初の挨拶(導入)の時間は15分間。

これからいよいよ、60分間にわたり、グループごとに美術館の中と外をめぐります。

60分間の活動時間の中には、「グループで見る時間」と「ひとりで見る時間」の2種類があります。

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「グループの時間」は、同じものを見ながらそれぞれの意見や見方を出し合い、対話を深める時間です。そのあとの「ひとりの時間」は、先ほどの活動テーマ「100年後に遺したいと思うものを見つける」時間です。

「100年後に遺したいと思うものを見つける」活動にこどもたちが取り組みやすいように、「自分がビビビッとくるもの」を見つけたら、それを「つぶやきシート」と呼ばれるワークシートに記入するというワークを用意しました。

 

|グループでまなざしを共有する時間

 

グループごとに出発です。

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館内の様々なところで足を止め、建物の壁、天井、柱などの素材や見え方、照明や椅子などの色や形などをじっくり観察します。

 

そのグループの時間に伴走をするのは、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)のみなさんです。

各グループに2名ずつのとびラーが一緒に活動をします。

とびラーのみなさんは、こどもたちと一緒に過ごしながら、こどもたちがたくさん発見できるよう、またじっくり観察できるように促します。

 

「どんなことに気づいたの?」

「ここから見ると、どんな形かな?」

「どんなところが気になったの?」

 

と声かけをしていきます。

こどもたちの発言を促し、お互いの意見が聞き合えるような対話の場をつくり出します。

 

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こどもたちと目線を同じにし、そしてこどもたちが伝えようとしている言葉をよく聞きながら、
グループみんなのまなざしを共有していきます。

 

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建物の模型を観察しながら、1975年の新館建設当時と2012年にリニューアルした時の共通点と違いについて話しています。

 

「エントランスの階段がなくなって、バリアフリー化している!」

「窓が大きくなって、明るい雰囲気になっていそう」

 

など、間近な視点で見るのと、また異なる視点で、建物の構造や特徴などを捉えています。

 

 

 

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逆に、建物の素材をじっくり観察している、こちらのグループ。

「どんな表情をしている?」というとびラーからの声かけに、

「ザラザラしている」「いろいろな石が入っているみたい」など、

目を近づけて観察し、気づいたことを共有しています。

 

普段はなかなか注視しないポイントにも、今日は注意深く見つめていきます。

とびラーと一緒に見ていくことで、東京都美術館の建築について考えを深めていきました。

 

 

建物の次は、外にある野外彫刻作品を見る時間です。

東京都美術館で所蔵されている野外彫刻作品は、美術館の前庭に設置されています。

実は、東京都美術館の建物が建ったのと同時代の作品なのです。

この近代彫刻の作品を、みんなでじっくり見つめ、様々な見方をしながら鑑賞していきます。

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|一対一で文化財と対話する時間

 

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「グループでの時間」での対話を終えると、今度は「ひとりでの時間」です。

この時間も、実は「自分との対話」の時間なのです。

こどもたちは一人になって、「自分がビビビッとくるもの」=気になるものを探しに、美術館内をもう一度めぐります。

自分が見つけたそのものと対峙したら、じっくりそのものを観察し、気になった理由などを「つぶやきシート」に記録していきます。

 

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先ほどまでのグループでの対話が活かされる時間です。

他の人の意見を聞き多角的な視点を得られたこどもたちは、この「ひとりの時間」でも、内省しながら自己と作品との対話を深めています。

 

この時間に書かれたこどもたちのつぶやきシートを一部ご紹介します。

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 画像をクリックすると、大きく表示されます。それぞれどのようなことに気づいているのか、じっくり読んでください。

 

この通り、様々な視点でこどもたちはそれぞれ美術館の空間を味わい、建築や彫刻作品を鑑賞していました。

「100年後に遺したいと思うもの」の視点についても、もの本体を遺そう、という視点だけではなく、壁の素材や作品の魅力だと思うところを誰かに遺し伝えるという思いでそのものの魅力に迫っているのがわかります。

「100年前」〜「今(現在)」〜「100年後」という時間軸に身を置き、その時間の幅に思いを馳せながら、まさにねらい通りに、美術館の社会的役割について考える体験となったようです。

 

 

|SDGsとミュージアム:展示の舞台裏まで

 

最後に、今回のプログラムのために特別に紹介した「展示室」での様子について紹介します。

東京都美術館の学芸員 稲庭彩和子の案内により、展覧会ができるまでの話や、そこで使われる道具などが紹介されました。

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会場となった場所は、普段だと特別展と呼ばれる展覧会が開催されているお部屋です。

当日は展覧会が開催されていない期間だったので、空っぽの展示室で、様々な道具や作品が展示されるケースなどを見てもらいました。

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展覧会ができあがるまでの行程や様々な人の手によって成り立っていること、

そして何を一番心がけて展覧会の準備をしているのか、などのお話しがありました。

展覧会に集まる作品や文化財の魅力が、ひとりでも多くの人に、そして少しでも長い未来に伝わっていくようにーー

この時間も、「美術館の社会的役割」を考えるうえで重要な体験となったと思います。

 

導入のスライドでは、ミュージアムと「SDGs」との関係性についても話しました。

そもそもSDGsの目標はどこにあるのか:それは、持続可能な開発ができる世界となること、です。

そのためのグローバル目標が、全部で17種類あります。

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17個の目標を表すこの図は、昨今よく目にするようになりました。

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Illustration: Azote for Stockholm Resilience Centre,Stockholm University
このイラストは、17個の目標を相対的に捉え、立体的に表した図です。

全てのグローバル目標を叶えるために串刺しとなっているのが、17個目の目標:パートナーシップです。

社会の中でパートナーシップ=協働性を持って取り組むこと、
そのためには何が必要かというと、信頼関係や、他者に対する想像力です。

それを育むための場所が、「ミュージアム」なのです。

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人類が情報をどのように伝達してきたのかを表す図です。

人間は、自分の脳内で情報や記憶を持ち切ることができず、

他者や後世の人に伝え伝達するために、様々な表現方法を用いてきました。

美術館や博物館は、その表現方法のひとつ、遺し伝える機能を持つ施設として誕生したのです。

美術館や博物館と呼ばれるミュージアムという施設には、多様な文化背景を持つもの、いわゆる異文化のものや異なる時代のものまで、本当に様々なものが保存・保管されています。

そこで出会う他者のことを想像し、受け容れること、物語を共有することは、まさに他者との信頼関係を築き、パートナーシップを作り出す原動力となります。

 

 

「もの(作品)をよく見る」という体験を出発として、多様な価値観を受け容れること、そして美術館はそれが担保されている場所であることを感じ取ってもらえるよう、プログラムを考えました。

こどもたちは、グループの時間とひとりの時間でのそれぞれの体験を経て、東京都美術館の建物や作品の魅力を見出し、「遺したい」という原動力をもってそのものを見つめていました。

今回の体験を経て、自分の生きる社会や未来と美術館やミュージアムとの結びつきを考えるきっかけとなることを願っています。

 

 


 

日時:2020年12月17日(木)午前10:00〜11:45

学校名:北区立田端小学校

学年:6年生

進行:鈴木智香子(Museum Start あいうえのプログラム・オフィサー/東京藝術大学 美術学部特任助手)、稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員)

参加者:こども83名、教員6名

とびラー:29名


執筆:鈴木智香子(Museum Start あいうえのプログラム・オフィサー)

プログラム: うえのウェルカム |
投稿日: 2020年12月17日