スペシャル・マンデー・コース@BENTO おべんとう展 (2018.9.25)
(江東区立第三大島小・台東区立根岸幼稚園・豊島区立巣鴨小)
「おはようございます!」
「よろしくお願いします!」
上野公園の黒門前。バスから降りてきたこどもたちは、すでに興奮気味。「スペシャル・マンデー・コース」を楽しみにしていた様子が伝わってきます。
「スペシャル・マンデー・コース(学校向けプログラム)」が実施されるのは、展覧会の休室日。本来お休みの日を、学校のために特別に開室します。そのため、ゆったりとした環境の中でこどもたちが本物の作品と出会い、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)と共に鑑賞できると好評のプログラムです。
今回参加したのは、全部で3校。午前中は台東区立根岸幼稚園(年長)、江東区立第三大島小学校(6年)、午後は豊島区立巣鴨小学校(3年)のみなさんです。
【冒険のはじまり】
江東区立第三大島小学校6年(以下第三大島小)のみなさんが黒門前に到着したのは朝9時過ぎ。上野公園の広場にて、「1班」「2班」と書かれたプレートを持ったとびラーが出迎えます。
児童90名、引率4人の大所帯。そこに、ツアーの伴走役を担う24名のアート・コミュニケータ(以下とびラー)が加わります。
この日鑑賞するのは東京都美術館で開催中の「BENTO おべんとうー食べる・集う・つながるデザイン」展。
まずは講堂へ。みんなを待っていたのは、東京都美術館 学芸補佐の山家いつかさん。
「今日、みんなと会えるのを楽しみにしていました!」
さっそく、美術館についての説明がはじまります。
「美術館て、どんな場所だと思う?」
「絵がある」「彫刻がある」「モナリザ!」と答えるこどもたち。
「そうだね。昔の人がつくったものもあれば、現代の人のものもあります。今日見るのは、いま生きている現代アーティストがつくった、現代美術の展覧会です。」
「おおっ」
スクリーンに映し出された展示室の写真に、歓声があがります。
「ただ絵や彫刻があるだけでなく、自分も参加して楽しめる展覧会です。とびラーさんと一緒に、お話ししながら鑑賞してくださいね。」
ここで、「BENTO おべんとう」展の出品作品でもある、アニメーション《おべんとうDAYS》を、講堂で鑑賞。主人公のね子ちゃんが世界のおべんとうをめぐる旅に出るストーリーで、展示されているお弁当箱や出品作家も登場します。静かに見入っている子もいれば、キャラクターに合わせて手を動かす子も!
それでは、待ちに待った展示室へ。
今日の第三大島小の活動は、3つのステップで進んでいきます。
1、全体説明(美術館の過ごし方を知る時間)
2、グループ鑑賞(みんなで展示室をめぐり、空間に慣れる時間)
3、個別鑑賞(自分がみたい作品と、ひとりでじっくり向き合う時間)
【第三大島小、展示室へ】
アートカードを使って事前学習してきたこどもたち。展示室で、アートカードにあったお弁当箱をさっそく見つけました。
「これ、俺が見たかったやつ!」
「中身はどうなってるんだろう?」
いろいろな時代の、世界のお弁当箱が展示されているケースの前で、話しています。
大塩あゆ美が参加したプロジェクト《あゆみ食堂のお弁当》で立ち止まったこどもたちもいます。
「何か気づいたことある?」とびラーが話しかけます。
「紅ショウガが多い!」
「おれ、大好き!」
こどもたちのなかには、美術館を訪れるのが初めての子もいます。グループ鑑賞の時間は、とびラーとこどもたちで話しながら、作品のいろいろな見方を発見し、展示室の雰囲気に慣れていきます。
「精霊が住んでいるんだよ。」ととびラーが紹介しているのは、マライエ・フォーゲルサングさんの《intangible bento》という作品。専用の音声端末機器「精霊フォン」を使い、お弁当箱のなかに住んでいる、お弁当の精霊のお話に耳を傾けながら空間をめぐる作品です。
「ひとりずつ、気をつけて入っていってね」
こどもたちが白い布で覆われた作品のなかへおそるおそる入っていきます。
【根岸幼稚園、みんなで美術館体験】
ちょうどその頃(午前10時頃)、ロビーには台東区立根岸幼稚園(年長)のみなさんが到着しました。園児22名に引率3名。そこにとびラー9名が加わります。
今日の根岸幼稚園の活動は、次の2つのステップ。
1、全体説明(美術館の過ごし方を知る時間)
2、みんなで美術館体験(ゆっくり展示室をめぐり、ミュージアムデビューを楽しむ時間)
展示室では、こども3人に、とびラー1人の小さなグループになり、手をつないでまわります。
最初に、入り口から展示室を見下ろして、これから向かう場所を確認。早く見たいな、とわくわくする気持ちも高まります。
階段を下りながら、展示室へ。「ゆっくりだよー」と声をかけるとびラー。こどもたちの安全にも気をくばりながら一緒に進みます。
「何が入ってるかな?」
「おさかな、ほうれん草!」
展示ケースの前で、お弁当箱を覗き込むこどもたち。
「あ、これ持ってる!」
アルミ製のお弁当箱の前で足を止めた子がいます。
「ねえねえ、あれなあに?あれもお弁当箱?」
アジア、アフリカ、ヨーロッパなどの世界のお弁当箱。見たことのない形のお弁当箱が並んでいます。
隣には、お弁当箱に触れるコーナーも。
「やってみる?」
「うん!」「そうっとね」白い手袋をして、そうっとお弁当箱を持ちあげます。
「どんなお弁当が好き?」
《あゆみ食堂のお弁当》の前、「これ!」みんなの票を集めたのは、煮卵が載っているお弁当でした。
そして、根岸幼稚園のみんなも、《intangible bento》へ。
いちど集合して、Museum Start あいうえのプログラム・オフィサーの、鈴木智香子さんの話を聞きます。
「ここは、お弁当の精霊さんの住んでいる場所です。」
精霊フォンを手にしたこどもたちは、真剣そのもの。
「声が聞こえるよ」「聞いてごらん」と、自分の精霊フォンを先生の耳にあて、聞かせてあげる子も。
作品をめぐっているうちに、あっというまに11時に。終了の時間です。
ふたたびロビーに集合したこどもたちに手渡されたのは、『ミュージアム・スタート・パック』。「おうちに帰っても、また思い出してもらえるように、みんなへのプレゼントです。」お家のひとにも、先生から「保護者向け冊子」を渡します。
「楽しかった」「また来たい!」というこどもたちに、「今日はこれでおしまいだけど、これからも、何度も来れます。小学生になっても、大人になっても、それぞれの楽しみ方があるんですよ。」と智香子さん。
「さようなら」とびラーが手をふってこどもたちを見送ります。
【第三大島小、ひとりでじっくり向き合う時間】
階下の展示室では、大島小のみなさんが個別鑑賞の時間を過ごしています。ここで登場したのが「つぶやきシート」とボード、鉛筆。気づきをメモできるように準備をし、ひとりで作品と向き合います。
北澤潤《FRAGMENTS PASSAGE-おすそわけ横丁》に足を踏み入れたこどもたち。
歩いては立ち止まったり、棚を覗き込んだり。つぶやきシートに書き留めた言葉は
「いろいろなものがあってすごかった」「色がカラフル」
集合時間になってもまだ、つぶやきシートを書く手が止まらない子もいました。
最後はもう一度、講堂に集合。
『ミュージアム・スタート・パック』が渡されます。
「目にとまったもの。こころにとまったことをメモしてね。」と山家さん。
「Museum Start あいうえの」のプロジェクト紹介動画を鑑賞し、また何度も上野公園に来たくなる秘密の呪文を紹介しました。
その呪文とは…上野公園の9つの文化施設の各所で唱えると、オリジナルの缶バッジをもらうことができるものです。みんなでその呪文を声に出して終了となりました。
「ありがとうございましたー」「さようならー」
元気に去っていくこどもたち。ですが、この日、足を怪我していた子もいました。貸し出し用の車椅子を利用し、展示室をまわりました。美術館では、普段ももちろん、こうした個別対応も可能です。
【巣鴨小、空間に慣れる時間】
午後1:00。こんどは、豊島区立巣鴨小学校(3年)(以下巣鴨小)のみなさんが美術館のアートスタディルーム(以下ASR)に到着しました。児童66名、引率5名。そこに、とびラー30名が加わります。
巣鴨小の活動も、大島小と同じ、3つのステップで進んでいきます。
1、全体説明(美術館の過ごし方を知る時間)
2、グループ鑑賞(みんなで展示室をめぐり、空間に慣れる時間)
3、個別鑑賞(自分がみたい作品と、ひとりでじっくり向き合う時間)
「気づいたこと、発見したことをたくさんとびラーに話してみてね。初めての美術館を一緒に楽しみましょう!」
展示室のなか、阿部了《ひるけ》を鑑賞しながら、さっそく話す声が聞こえています。
「こんなでかいお弁当箱使ってるんだ!」
「食べきれないよね」
「見てこれ!」「おじさん犬だって」「発想がすごい!」
こどもたちが口々に話しながら指差しているのは、《お父ちゃん弁当》。
小山田徹さんが日々実践する、家族とのお弁当づくりのアーカイブです。幼稚園に通う弟のために、小学生の姉がお弁当の指示書を書き、父親である小山田さんがそれを作っています。
【巣鴨小、つぶやきシートを片手に】
「みんな、どこに行くか決めた?」とびラーが声をかけます。
これからの20分は、個別鑑賞の時間。行き先を決めたら、つぶやきシートを手に、ひとりで出発します。
展示室での過ごし方は、それぞれの過ごし方でOK。
《FRAGMENTS PASSAGE-おすそわけ横丁》をキョロキョロしながら進む子。
森内康博《Making of BENTO》で机に座り、お弁当箱のなかに映し出されるショートムービーをじっくり観る子。
様々なお弁当箱の中から自分の「お気に入り」をじっくり探し出そうとする子。
途中、それぞれのペースでつぶやきシートを書いていきます。
こどもたちのシートには
「ちょう楽しかった」
「お弁当の精霊と話すのがおもしろかった」
「動画をみた。いろいろなところを工夫していた」といった言葉が記されていました。
お弁当箱の絵を描き、「大きいけど軽い」「カラフルでかわいい」といったコメントを書き添えている子もいます。
ひとりの時間、じっくり、ゆっくり、作品に向き合ったこどもたち。
終了時間になり、ASRに戻ってきました。「おかえりなさい」。スタッフが出迎えます。
「おべんとう展はどうでしたか?」
「楽しかった!」
巣鴨小のみなさんにも、ミュージアム体験をサポートする冒険の道具。『ミュージアム・スタート・パック』をプレゼント。
最後に、「Museum Start あいうえの」のプロジェクト紹介動画を鑑賞しました。
「せーの!」で「ビビハドトカダブ!」と呪文を唱えて、終わりとなりました。
スペシャル・マンデー・コースの1日がこうして終了しました。
この日の3校は、学年も、人数、所在地もまちまち。
スペシャル・マンデー・コースでは、無料の送迎バスが利用できるため、遠方からの参加もあります。
そうしたバスの利用や、当日の鑑賞プランについては、事前に申し込み校の先生と打ち合わせをし、それぞれの学校にあったプログラムを先生と協働で当日まで作り上げます。
そのため、同じ展示でも年齢等によって、鑑賞のポイントを変えることもあります。
また、<事前学習>→<当日>→<事後(ミュージアム・スタート・パック)>という3つのステップで、こどもたちが体験を深めていけるようプログラムをデザインしています。
さらに、当日の鑑賞はとびラーが伴走します。とびラーは、アート・コミュニケータ。ガイドではなく、作品を介した対話を通し、みんなの関心を引き出す、ミュージアムの達人です。
学年単位の大人数での参加でも、少人数のグループになり、それぞれにとびラーが入ることで、こどもたち一人一人のペースにあわせた鑑賞が可能になります。こどもたちにとっては、先生や保護者ではない大人と出会う機会にもなっています。
「また来るね!」そう言って手を振るこどもたちにとって、この日の体験がいつかどこかで響いてくるといいな。そんな想いで、こどもたちを迎えるとびラー。そうして当日出会ったこどもたち、作品とが響き合って、今日も、ここにしかない対話が生まれています。
執筆|井尻貴子
編集|Museum Start あいうえの運営チーム
投稿日: 2018年9月25日