2018
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スペシャル・マンデー・コース:港区立港南小学校

11月19日(月)、学校向けプログラム「スペシャル・マンデー・コース」が行われました。
「スペシャル・マンデー・コース」とは、展覧会休室日(月曜日)に学校のために特別に開室し、ゆったりとした環境の中でこどもたちが本物の作品と出会い、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)と共に対話をしながら鑑賞する特別なプログラム。
今回みんなで鑑賞しに行くのは東京都美術館で開催中の特別展「ムンク展―共鳴する魂の叫び」。
普段は多くの方で賑わっている展示室も今日はこどもたちのためだけの特別な空間に変わります。
今日参加したのは、全部で3校。午前は目黒区の小学校4年生と都立特別支援学校の高校3年生、そして午後は港区の小学校6年生が来館しました。
本ブログでは午後の1校の様子についてご紹介します。
港区立港南小学校
(生徒 187人 引率教員8人 とびラー38人)

お迎えとびラー出動!

港南小学校は児童数1学年200人近く、大所帯での来館です。
貸切バス4台に乗ってやってきました。
貸切バスは、都内であっても遠方の学校にとって有意義な移動手段。事後アンケートでも、先生より「貸し切りバスを利用できたからこそ、本校のような大規模校にも美術館での鑑賞活動を実現できました。」という声を寄せていただきました。
上野公園に到着すると、待ち受けていたのは”とびラー”のみなさん。
班カードを手に持ち、児童のみなさんがスムーズに移動できるように出迎えました。
班ごとに整列し、順繰りに美術館へと向かいました。

はじまり:全体挨拶

東京都美術館の講堂に集合し、まずはじめに全体挨拶です。
Museum Start あいうえののプログラム・オフィサーである鈴木より、今日の活動の流れ、これから見に行く「ムンク展」について、そして守ってほしいお約束についてお話しします。
最初は少し落ち着かなかったみなさんも、この時間で「美術館にやってきたんだ」というモードに少しずつ変わりました。

展示室へ:展示室散歩

全体挨拶を終えると、班ごとに分かれての活動となります。
今日は、1班こども10人に、とびラーが2人ずつ加わったグループで活動します。
展示室に入る前に、今日はどんな仲間と活動するのかを確認する、自己紹介の時間です。
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こどもたちは、初めて出会う大人であるとびラーや初めて入る美術館に対して、少し緊張した面持ちで、それぞれ展示室へ入って行きました。
その緊張感をほぐすために、「展示室散歩」という活動の時間があります。
1つ1つの作品を頭からじっくり見るのではなく、まずはフロア全体をぐるっとめぐります。
事前学習でアートカードを使った授業をしてきた港南小のみなさん。
自分が見たいと思う作品を1つ選び、それについて物語を書く授業を行ってきていました。最後に、その様子について少し紹介します。
この展示室散歩の時間で、自分が選んだ作品をとびラーが紹介したり、みんなで探しながら歩いてみたりして、作品との出会いをより良いものになるよう工夫をしています。
こどもたちは3つのフロアを歩いているうちに、展示室の雰囲気にも徐々に慣れてきた様子です。

グループ鑑賞

そうしてグループ内のコミュニケーションがあたたまってきたところで、「グループ鑑賞」の時間です。
この時間では、1つの作品を複数の人と一緒に、お話ししながら鑑賞します。
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とびラーが進行役(ファシリテーター)となり、こどもたちの発言を全員で共有できるように、言葉を紡いでいきます。
グループ鑑賞の時間に「ふきだしシート」を使いました。
ただじっと見るだけでなく、作品を見ながら感じたことを言語化しやすくすることを意図して使用しました。
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このように、作品を見て気づいたことや感じたこと、その根拠となる理由まで書いている子もいます。まず書き出してみてから、それに基づきグループ全体で話し出す、という流れで行いました。
1作品めは「ふきだしシート」を使ったけれど、2作品めは使わなくても充分対話ができた、というグループもあったようです。
こどもたちととびラーはともに、2作品を30分間ほどかけて、じっくり対話を深めていきました。

個別鑑賞の時間

グループ鑑賞で、多様な視点や意見があることを体験した後は、ひとりになる時間です。
こどもたちは、「つぶやきシート」と会場マップを付けたボードを手にして(鉛筆も貸し出します)、それぞれのペースで見たい作品を見に行きます。
普段はひとりで作品を見る経験がないこどもたち。
だけど、今日はスペシャル・マンデー。港南小学校のためだけの貸切空間のため、ゆったりと安心して、展示室を味わうことができるのです。
お友達と同じ作品を選んだとしても、隣り同士で静かに作品と向き合います。
たまに、こそこそっと話しかけていることも。
「ねえ、この色すごいよね。」
「うん。すごい勢いを使って描いた感じがする。」
作品とじっくり向き合う体験。
こどもたちにとってはちょっぴり大人になった気分になったのではないでしょうか。
この経験を経てこそ、これからも美術館で「自分が見たいものをひとつでもじっくり見る」姿勢を学び身につけることができます。そのためのとても大切な時間なのです。

最後の挨拶:ミュージアム・スタート・パックをプレゼント!

展示室での活動を終えて、講堂に戻ってきたこどもたち。
行く前とでは全然表情が違っていました。
「ムンク展を見て、どうだった?」と尋ねたら、「楽しかったです!」と元気な声が戻ってきました。
そんな港南小のみなさんに、最後にプレゼントが。
これから何度でも上野公園を楽しむことができる冒険の道具『ミュージアム・スタート・パック』です!
中には、上野公園の9つの文化施設を紹介するガイドブック機能がついた「ビビハドトカダブック」と、「冒険ノート」が入っています。「冒険ノート」には、今日の活動のように、作品を見て気づいたことや感じたことを文字や絵にして、自分だけの記録をまとめることができます。
また、それらがまとめて入った布バッグに、9つの施設のオリジナルバッジを集めてコレクションすることができるのです。そのためには秘密の呪文が必要です。
みんなで、その秘密の呪文を唱えて、今日の活動は終了となりました。
その後、再び港南小6年生は上野公園の東京国立博物館と国立科学博物館を訪れる予定だそう。
今回は美術館デビューでしたが、今度は博物館デビューの1日となりそうです。

事前〜当日〜事後の流れ


そして後日、学校では事後学習が行われました。
今回ムンク展を題材にして、鑑賞と造形表現をつなげる授業を考えました。
事前学習で貸し出す「鑑賞ボックス」には、アートカード以外にも展覧会ポスターや関連する印刷物も入っています。学校の壁いっぱいに掲示して、「美術館に行くんだ」という雰囲気づくりやわくわく感を演出します。
先生が作成した授業の流れには、このように書かれています。
1. 事前学習「人生劇場」:アートカードの中から心ひかれる1枚を選び、絵から感じとったことをもとに想像を広げて、人物の気持ちやストーリーを考えました。
2. 11/19(月) MUNCH展を鑑賞@東京都美術館:とびラーさんたちと共に作品を鑑賞します。とびラーとは、親とも先生とも違う大人。対話を通してこどもたちの見方・感じ方をひき出しながら共に鑑賞するアート・コミュニケータです。
3. 事後学習「ココロのマド」:自分の記憶や感情などを思いおこし、それを線や色や形に表していきます。
事前学習の「人生劇場」は、アートカードの中から自分が気になる作品を1点選び、それにまつわる物語を想像する、という内容でした。また、特別支援学級である「わかば学級」も同じ活動に参加していました。こちらはふせんを使ってせりふを考えることで、作品に近づく心の準備をしてきました。
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また、事後学習では以下のような内容を行なったようです。(事後アンケートより)
ムンク作品の明と暗、不安と希望、動と静を見比べた後、自分の記憶とその時の感情を色と形で表す活動を行いました。自分の内面に目を向けて表せている様子が見えました。
事前学習ではものがたりづくり、当日は美術館での鑑賞、事後では造形活動の表現へ。
いったいどのような作品ができあがったのでしょうか。
このようにして、「スペシャル・マンデー・コース」ではこの活動のために、先生との事前打ち合わせからスタートして、事前・当日・事後まで一連の流れを組み立てていきます。
当日に向けて、学校の先生と大学教員、美術館の学芸員、そしてアート・コミュニケータがこどもたちのミュージアム・デビューをより良いものにするよう、それぞれ力を尽くして行なっています。
この豊かな体験を入口にして、これからも美術館やミュージアムに足を運んでくれることを願っております。
鈴木智香子 | Museum Start あいうえの プログラム・オフィサー

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